睡眠とアミノ酸

睡眠とアミノ酸

新型コロナウィルスからくる不安やリモートワークによる働き方の変容で就寝時間・起床時間が遅くなり、なかなか寝付けない、寝ている時間は十分なのに朝すっきり起きられないというお悩みを持つ方も多いのではないでしょうか。
睡眠には、心身の疲労回復をする働きのほか、記憶を定着させる、免疫機能を強化するといった役割があり、質の良い睡眠をとるためには、アミノ酸の摂取がとても大切になります。
そこで、今回は睡眠とアミノ酸についてお伝えします。

睡眠の役割

そもそもヒトはなぜ眠るのでしょうか?
睡眠の役割はカラダの疲労回復だけでなく、
記憶の定着や免疫力アップなど私たちカラダの様々調整にも関与しています。

脳の休養

睡眠は脳を休めるために必要な生理現象です。
とは言っても、脳が停止することはなく、私たちが呼吸を整えるように、
脳もゆっくり整える時間が必要なのです。

そのため睡眠の質が悪いと、脳が十分に休息を取れていない状態となります。
その結果、「いらいら」や「元気がない」などの症状が出てきます。

睡眠不足であると意欲がなくなったり体がだるくなることがありますが、
これは脳が休息を求めているサインとなります。

記憶の整理・定着

前日嫌な思いをしたけれども、一晩寝たら何となくすっきりしたという経験は
ありませんか?
これは睡眠中に嫌な記憶が整理され、必要に応じて消去されているからです。
また学習した記憶が睡眠によって定着・保持されるだけでなく、
むしろ向上・強化されることも複数の研究によって示されています。

ホルモンバランスの調節

「寝る子は育つ」と言いますが、これは寝ている間に成長ホルモンが
たくさん分泌され子どもの成長を促すためです。
成長ホルモンは、寝てから最初の深い眠りの時に活発に分泌され、
発育促進のほか、肌や骨など細胞の再生・修復などを行います。

免疫機能の強化

病原菌やウィルスから身を守るために作られる抗体の産生など、
免疫細胞は睡眠時により活性化します。
睡眠の質が落ちると、病気に対する抵抗力も落ちてしまいます。

睡眠障害

睡眠障害とは、睡眠に何らかの問題がある状態をいいます。
眠れなくなることはよくみられますが、眠れない=不眠症ではありません。

睡眠障害の原因には、環境や生活習慣によるもの、
精神的・身体的な病気から来るもの、薬によって引き起こされるものなど
様々です。

入眠障害

床に入ってもなかなか寝つけない、眠りにつくのに1時間以上かかり、
それを苦痛と感じる状態つづくことです。
不眠症の訴えで最も多く、不安や緊張が強い時におこりやすいと
いわれています。

中途覚醒

睡眠中に何度も目が覚めて、その後、なかなか寝つけない状態です。
加齢とともに眠りがだんだんと浅くなり目覚めやすくなります。
日本人の成人の不眠で最も多く、中高年・高齢者に多くみられると
いわれています。

早期覚醒

自分の望む起床時刻より早く目覚めてしまう状態です。
加齢により、体内時計のリズムが前にずれやすく、
また若い人に比べて夜遅くまで起きているのがつらくなるので、
早寝早起きになります。
高齢者やうつ病によくみられる症状ですが、
睡眠時間が1日4~5時間未満でなく、
他の睡眠障害が伴っていなければ
さほど心配はいりません。

熟眠障害

睡眠時間は十分なのに、ぐっすり眠った感じが得られない、
眠りが浅い状態です。

睡眠時無呼吸症候群やムズムズ脚症候群など、
睡眠中に症状の現れる病気が関係していることもあります。

睡眠障害には不眠だけでなく、昼間眠くてしかたないという状態や、
睡眠のリズムが乱れて戻せない状態など、多くの症状が含まれます。
また、睡眠の問題は1つの原因だけでなく、いくつかの要因が
重なって起こってくることも多くみられます。

睡眠障害の原因

睡眠障害の原因は人によって様々です。

原因によって生活習慣を見直すだけで大丈夫な場合や、
医師による治療が必要になる場合もあるなど、対処法も変わってきます。
ここでは睡眠障害を引き起こす主な原因を紹介します。

ストレス

ストレスと緊張は安らかな眠りを妨げます。
神経質で生真面目な性格の人はストレスをより強く感じ、
不眠症になりやすいといわれています。

カラダの病気

高血圧や心臓病(胸苦しさ)・呼吸器疾患(咳・発作)・腎臓病・
前立腺肥大(頻尿)・糖尿病・関節リウマチ(痛み)・
アレルギー疾患(かゆみ)・脳出血や脳梗塞など様々なからだの病気で
不眠が生じます。
また、睡眠時無呼吸症候群やムズムズ脚症候群(レストレスレッグス症候群)
など、睡眠に伴って呼吸異常や四肢の異常運動が出現するために
睡眠が妨げられる場合もあります。

不眠そのものより背後にある病気の治療が先決で、
原因となっている症状がとれれば不眠はおのずと消失していきます。

こころの病気

こころの病気は不眠を伴います。
近年は、うつ病にかかる人が増えています。
単なる不眠だと思っていたら実はうつ病だったというケースも
少なくありません。
「早期覚醒」と「日内変動(朝は無気力で夕方にかけて元気がでてくる)」の
両方がみられる場合には早めに専門医を受診しましょう。

薬や刺激物

治療薬が不眠をもたらすこともあります。
睡眠を妨げる薬としては降圧剤・甲状腺製剤・抗がん剤などがあげられます。
また、抗ヒスタミン薬では日中の眠気が出ます。
コーヒー・紅茶などに含まれるカフェイン、たばこに含まれるニコチン
などには覚醒作用があり、安眠を妨げます。
カフェインには利尿作用もあり、トイレ覚醒も増えます。
コーヒーは香りのリラックス効果もありますので、
すべてがNGではありませんが、気になる方は
コーヒーを飲む時間や量を見直してみましょう。

生活リズムの乱れ

交替制勤務や時差などによって体内リズムが乱れると不眠を招きます。
現代は24時間社会といわれるほどで昼と夜の区別がなくなってきていますので
どうしても睡眠リズムが崩れてしまいます。

環境

騒音や光が気になって眠れないケースもみられます。
また寝室の温度や湿度が適切でないと安眠できません。

ブルーライト

寝る前のスマートフォンや携帯、タブレット端末の利用により
睡眠の質を下げ、症状の誘因となるケースが多くみられます。
ブルーライトは、睡眠を促すホルモンである「メラトニン」の
分泌を抑制し、体内時計を狂わせ睡眠の質を低下させる原因に
なってしまいます。

とくに成長期のお子さまや、自律神経のバランスを整えたい人は、
夜の電子機器の使用は、少なくとも睡眠30分~1時間前までに。

睡眠に関係の深いホルモン

睡眠中には、何種類ものホルモンが体内で分泌されています。
その中でも成長ホルモン、メラトニン、コルチゾールは
健康維持・増進にかかわる重要な役割を担い、睡眠と
覚醒のリズムとも関係の深いホルモンです。

カラダをつくる成長ホルモンは、深いノンレム睡眠で熟睡している時に
最も活発に分泌されます。

また、空腹時に分泌が活発になるため、夜遅い飲食は避けましょう。

成長ホルモン

子どもの成長や修復に関わるホルモン。
寝てから最初の深い眠りの時に活発に分泌されます。
大人でも分泌され、細胞の再生、アンチエイジングに役立ちます。

メラトニン

生体リズム調節に重要な役割を果たしています。

朝、太陽の光を浴びると、網膜を通して視床下部にある視交叉上核から
脳の松果体に信号が送信され、メラトニンというホルモンの分泌を
コントロールしています。
メラトニンは夕方から夜間にかけて産生され、睡眠や覚醒、
ホルモン分泌などの概日リズム(サーカディアンリズム)の調整をしています。

コンチゾール

就寝中のコルチゾールの分泌量は、午前3時頃から明け方にかけて増加、
起床後30~60分の間に大量に分泌、その後徐々に低下していきます。

コルチゾール量が早朝に増えると、体内にある糖分がエネルギーとして
使えるようになり、睡眠中食事をしない影響で起こる朝の低血糖を
防いでくれます。
さらに、体温や血圧も上昇させて脳や体を活性化し、
さわやかに目覚めるサポートをします。
私たちを眠りから覚醒させてくれる体内目覚まし時計の役割をしています。

睡眠をサポートするアミノ酸

アミノ酸は、たんぱく質を構成する最小単位の成分で、皮膚、筋肉、臓器、
ホルモンなど、ヒトのカラダの大部分はアミノ酸からできています。
カラダを構成するほか、アミノ酸は睡眠に関わるホルモンの材料や神経を
鎮めるはたらきがあります。

そこで、睡眠の質を高めるために欠かせない3種類のアミノ酸を紹介します。

トリプトファン

睡眠をコントロールしている脳内物質である「セロトニン」や
「メラトニン」は、必須アミノ酸の1つである「トリプトファン」から
作られます。

食べ物から摂取したトリプトファンは、日中は脳内で「セロトニン」に変化し、
夜になると睡眠を促す「メラトニン」に変化します。
このサイクルは、午前中に日の光を浴びることが必須です。

トリプトファンが不足すると、不眠症や睡眠の質の低下を
引き起こす原因となります。
トリプトファンは、たんぱく質を多く含む食品に含まれ、肉や魚、
豆腐や納豆などの大豆製品、乳製品、ナッツ類、果物ではバナナなどに
豊富に含まれます。

GABA(ガンマ-アミノ酪酸)

たんぱく質を構成しないアミノ酸の一種で、わたしたちの体内で
神経伝達物質として働きます。
ストレスを和らげて脳の興奮を鎮める作用があり、
GABAを摂取することによって、睡眠の質向上を見込むことができます。
GABAは、カオや玄米(発芽玄米)、トマト、大豆や植物性発酵食品に含まれます。

グリシン

アミノ酸の一種で、赤血球や肝臓における重要な役割を担っています。
心地よい眠りにつくには、手足の末端から体温を放熱し、
深部体温を下げる必要がありますが、グリシンには深部体温を下げる働きが
あり、睡眠の質を向上する効果が期待できます。
また、体内時計に作用して、睡眠のリズムを整えてくれます。

エビ、ホタテ、イカ、カニ、カジキマグロなどに豊富に含まれます。

睡眠をサポートするのに欠かせないアミノ酸ですが、
私たちは、たんぱく質として摂取することがとても大切です。
たんぱく質には、睡眠に重要なセロトニン、メラトニンなど各種ホルモンの
材料となるほか、カラダの修復をサポートします。

また、体内でしっかり消化分解される過程で、
より良い睡眠に向けた体内活動(体内時計の向上)がまかなわれます。

たんぱく質の代謝にはビタミンB群も必要です。
ビタミンB6には、トリプトファンからのセロトニン合成や、
体内でのGABAの合成をサポートします。

私たちのカラダや細胞は、毎日摂取する食物からつくられ、
代謝をくり返しています。

眠りやすい環境を整えることはもちろん大切ですが、
食事によりカラダの内側から「良眠体質」へ変えていくことが大切です。


【監修】豊原悠里

管理栄養士/予防医学指導士
大手化粧品会社にてインナービューティーのカウンセリング、トレーナーを経て、精神科クリニックで管理栄養士・代替医療カウンセラーに従事。発達の問題やメンタルケアを中心に予防医学、栄養療法のコラムやセミナー、執筆サポートをてがける。

Bicle(ビクル)では、

  • 医師
  • 管理栄養士
  • 薬学修士
  • スポーツ栄養学の修士
  • 機能性食品や健康美容商品の企画開発・研究者

などの専門性を有するメンバーによって商品の企画・開発、記事の執筆等を行っています。